給食用強化磁器食器の強度

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ページ番号1002184  更新日 2023年2月1日

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はじめに

最近、強化磁器製の給食用食器が各社から発売されるようになりました。給食用食器の材質が金属、プラスチック、磁器の順で移り変りつつある状況は、人間の最も根元的道具への当然の帰着のような気がします。豊かさが個人の内面に求められる時代に、給食用であるからこそ家庭で使うのと同じ材質である焼き物の食器を使う意義は大きいと思われます。本稿は給食用強化磁器食器の特徴を述べると共に、磁器製食器を採用する際の注意点を示します。特に選択の判断材料となる強度に関して解説します。

強化磁器食器とは?

美濃地区の磁器食器は、粘土,長石,珪石などの天然原料から作られます(注1)。強化磁器は、上記原料の他に、アルミナ(Al2O3)というファインセラミックス原料を1~3割添加します。あるいは珪石の代わりにアルミナをそっくり置き換えて配合した磁器もあります。後者を特に高強度磁器と言って区別する人もいます。割れにくくなるのはアルミナの効果ばかりではありません。原料を細かく粉砕して破壊源となる大きな粒子を取り除くことが必要です。また、細かい篩(ふるい)を通すなど徹底した粒度管理が必要です。比較的粉砕しにくく大きな粒子として残りやすい珪石を微細なアルミナと完全置換するのはそうした理由からでもあります。さらに、釉薬の膨張率を調整し、素地との間に圧縮応力を発生させ、外圧(衝撃)に対する備えを予めさせておくことにより2割近い強度増加をもたらすという技術も使います。そして、普通の陶磁器を焼く温度より50~100℃程高い温度(1300℃前後)で焼成します。アルミナ添加(珪石と置換)、粒度細粒調整、釉応力付与、この3要素が強化磁器のポイントです。こうした技術により、一般磁器素材より曲げ強度で2倍から3倍強い強化磁器ができあがります。

(注1)他の陶磁器生産地では陶石(セリサイト、長石、珪石、カオリンを含み、ほとんどそれ自体で磁器の組成を満たす)を主原料とする磁器も製造されています。

強化磁器の特徴と問題点

宝石のサファイアやルビーと同じ物質であるアルミナはコランダムとも言い化学的に安定していて1300℃で焼いても結晶として残ります。高温で熔けてガラスになる珪石と違い、粒子のまま熔け残るアルミナを多く含む強化磁器は透光性がなくなりますが、白さが増します。アルミナが増えれば強度が増します。100%に近いアルミナで作れば、乳鉢(試料粉砕用化学磁器)のような硬い食器ができます。しかし、それでは融剤である長石分がないために1600℃以上の特殊な高温度焼成が必要になります。また、粘土成分もないために成形するのが極めて困難になります。さらにアルミナ100%では比重が3.98と大きく、一般磁器が2.4であるのに比べると非常に重い食器になってしまいます。アルミナ30%添加の強化磁器では比重が約2.9になります。給食用としては少しでも軽い方が良いので、食器の肉厚を薄くして製品の全体重量を軽くする形状に設計します。薄くした分、強度が低下するのを補うために衝撃を受けやすい縁の部分を丸くします(玉縁と言います)。また、薄くしたことにより落下の衝撃を皿自身の変形により吸収する事ができ自重による衝撃破損が改善されます。さらにスタッキング性が良くなり給食用食器の必要条件である収納性が格段に良くなります。さて、強化磁器の特徴はもちろんその強度です。機械洗浄が前提になる給食用食器には過酷な洗浄や運搬、あるいは机の上からうっかり落としてしまうというような不慮の衝撃にも耐える強度が要求されます。また現在の技術では一般磁器の約3倍まで素材強度を高める事が可能ですが、市販されている所謂「強化磁器」は、強度の幅が広く、普通磁器の1.2倍程度から上限の3倍まで素材強度は様々です。

素材強度と製品強度

ただ単に「強度」と言っても素材強度と製品強度とでは異なります。素材強度は単位寸法当たりで計算します。計算で得られた単位寸法当たりの強さは食器の形や厚み・大きさに左右されません。それに対して製品強度とは食器そのものの強さの事です。形や厚み・大きさによって強さは大きく変わります。喫茶店で見かける分厚いコーヒーカップ等も一種の強化磁器と言えないこともありません。素材強度は普通磁器程度でも肉厚があるので製品強度は増大します。つまり厚みは2乗で強度に関わってくるので、厚みが二倍になれば製品強度は四倍になるという計算になります(注2)。ところが、給食用食器としての強化磁器は薄くなければなりません。それは、前述のごとく軽く、コンパクトに積み重ねが可能であることが要求されるからです。そこで重要になるのが素材強度です。薄くして製品強度が低くなる分、素材強度をできる限り高くしておく必要があります。そこで問題になるのが、強化磁器製食器の強さをどの様に評価するかです。

(注2)3点曲げ強度の計算式は次式の通り。

イラスト:3点曲げ強度の計算式

素材強度の評価方法

イラスト:3点曲げ試験

通常、素材強度は三点曲げ強度で測定されます。パンフレットに宣伝する強度とは一般にこの三点曲げ強度を意味します。平成8年3月25日に日本セラミックス協会から発行された規格「食器用強化磁器の曲げ強さ試験方法」JCRS-203-(1996)により統一した測定方法が提示されましたが、それまでは各社がそれぞれ独自の方法で曲げ強度を測定していたので強度を同じ条件下で比較することはできませんでした。通常の試験では、生坏土(はいど=調整が済んだ土)から数センチの長さの棒状試験片を作成しますが、例えば、断面積がほぼ同じ丸棒と角柱の試験片で曲げ強度を比較すると前者が後者の1~2割程高い値を示します(注4)。この様な不統一を避けるため、試験片の形状、寸法、原料の成形方法、試験片の測定装置への設置方法などが規格化されました。さらに、その規格には、実際の製品から試験片を切り出して測定する方法も規定されています。これにより、製造側にとって簡便な試験方法である通常の試験方法と使用者側でも行える試験方法の二つが認められることになりました。つまり、前者の方法によるデータ、すなわちパンフレット等に記載される素材強度を、後者の方法で確認・実証することができる訳です。「素材が磁器なら強さはどれも同じ。」ではないのです。普通磁器基準で1.2~約3倍の範囲で素材強度に差があります。それは、原料の選択や前述「強化の3要素」に如何に注意を払ったかで決まるものなので、品質を維持するためには高価な原料と高度な技術が要求され、コストアップは避けられません。絵柄や値段が安いだけの理由で購入したために、破損率が高くなり、長期的に見てコストがかってしまう事もあるようです。パンフレットに記載された曲げ強度データが信頼できる機関で測定されたかどうか、すなわち日本セラミックス協会規格JCRS-203-(1996)に基づく測定方法によるデータであるかどうかの確認をお勧めします。

(注3)最近、曲げ強度の単位がkgf/cm2からMPa(メガパスカル)に変わりました。1kgf/cm2=0.098MPaです。
(注4)引用文献:小林雄一、他、日本セラミックス協会学術論文誌99[6]495-502(1991)「市販食器用磁器の曲げ強度と微構造」

製品強度の評価方法

イラスト:振り子の衝撃試験

一方、製品強度の評価方法には、チップ強度、リムインパクト、インパクト試験等の衝撃試験があります。衝撃試験に関しては、国内ではまだ測定方法の規格が制定されておりませんが、米国ASTM規格による試験方法に準拠して一部機関で測定されています(注5)。この方法は、つり下げ式ハンマーを皿に落下させ、欠けや割れが生じるまで振り上げ角度を順次上げて行きます。そして割れた時点のエネルギーを計算する方法に依りますが、ハンマーの当たる回数・場所・方向や製品の形状、特に厚みの影響を大きく受けます。小ロット単位では製品強度の目安にはなりますが、大量生産する給食用磁器製食器では、厚みや縁部の形状に微妙なばらつきが生じるのが普通であり、すべてのロットについてその衝撃強度を適用するには不安があります。プラスチックやガラスが成形型によりその大きさや重量、及び形状がそのまま決まるのに対して、陶磁器では機械ろくろにより成型します。コテの調整加減や坏土の硬い・軟らかい、あるいは縁の仕上げ処理の違いから、僅かな形状・厚みのばらつきが生じます。元来、焼成すると成形時と比べて約1割小さくなるのが焼物です。同じ形状・肉厚の製品を作るには高度な技術が必要になります。磁器製食器に限っては、製品強度を数枚のサンプルによる衝撃試験データで判断することよりも、素材強度を加味して、食器の肉厚形状、特に玉縁になっているかどうかの確認をする事が重要です。そして厚み、あるいは厚みと相関がある食器重量の統計学的計測を行った方が総合的な製品強度チェックとして有効です。

(注5)岐阜県セラミックス研究所などがあります。

給食用強化磁器の選択のポイント

給食用強化磁器の選択にあたりそのポイントをまとめてみましょう。

  • 強化磁器といえども焼き物である以上強い衝撃に対しては破損するので洗浄・配膳のシステムから考え直す必要があります。特に、洗浄過程で強い衝撃が食器にかからないように洗浄装置の改善をはじめ作業工程を見直して下さい。
  • 素材強度(曲げ強度)は、パンフレットデータを鵜呑みにせず日本セラミックス協会規格JCRS-203-(1996)により測定された公的機関の証明書で確認することをお勧めします。その測定規格には、生坏土(はいど)を石膏型に鋳込んで棒状試験片を作り実際の製品と同じ条件で焼成し測定に供する方法と、食器製品から棒状試料片を切り出し研磨して測定に供する2つの方法があります。
  • 製品強度は、形状、玉縁の状況、厚み、重量を統計的にチェックし、素材強度を加味して比較する方法が実際的です。普通、製品強度は厚い程、つまり重い程大きい事になります。しかし厚くて重い形状設計が悪い食器は、取り扱いが不便であったり、ぶつかりあう相手の食器を破損し易くする場合もあります。理想的な選択は、薄くて軽く、素材強度が大きく、しかも形(玉縁や厚みの設計)が良いために製品強度が大きい食器という事になります。
  • 用途に合った食器の大きさ、重さを選択するには、実際にまとまった枚数の食器を手にとって判断される事が重要です。陶磁器製食器の導入では、すでに全国に多数の実例があります。他所の前例を見学され参考にされるをお勧めします

加飾(イラスト)

食器の加飾の方法として、上絵付け、下絵、イングレーズ等があります。上絵付けの低温焼成によると色は鮮やかでくっきりした模様が表現できますが、磨耗し易い特徴があります。それに対して下絵やイングレーズの高温焼成ではほとんどその心配はありません。さらに、色相は多少淡い感じになりますが長期にわたって色があせません。給食用食器としては高温焼成による下絵、又はイングレーズの加飾方法を推奨します。

給食用強化食器の今後

より軽い強化磁器食器が要望されています。製造者は以下に述べる2つの方法でこれに対処しようとします。

  • 比重3.98と重い原料であるアルミナの量を減らして一般磁器の比重2.4に近づける。(注6)
  • 素地の中に気孔を作って軽くする。どちらも素材強度を低下させます。なるべく強度を保ったまま軽くする方法が検討されています。最近では、素材強度を比重の二乗で割った値で強度の評価をしようと提唱する研究者もいます。しかし、どう頑張ってもプラスチックやアルマイト素材の食器には軽さ・扱いの気安さの点では及びません。給食用食器に対する意識の切り替えが必要です。

(注6)クリストバライト強化磁器食器もある意味で軽量化を目指した製品です。焼成によってクリストバライト結晶(SiO2:珪石と同じ成分)を析出させ素地内に応力を発生させ強化した磁器です。

おわりに

食器を運搬する人にとっては負担でも、食事をする子供達にとっては食器の重さも重要な価値があります。豊かさを個人の内面に求めるとは手軽さ・便利さだけを優先せずに本物を大事にするということではないかと思います。磁器製食器では次のような事も可能です。使用年数を経て釉面が傷だらけになった場合でも、そのまま高温焼成(1200℃以上)を行えば、ほとんど新品同様になります。一部の業者では、これをリニューアル処理と呼んでいますが、これは、一種のリサイクル・リユースと言えるのではないでしょうか?強化磁器食器の特徴をよく理解し、他所の前例を十分検討された上で最適な食器を選択されることを期待いたします。

本当に素材強度が3倍(普通磁器比較)の食器が必要かという議論があります。メーカーにとって強度を維持するには、かなりの努力が必要です。コストもかかります。「強度を多少落とし、販売し易い価格にしては!」と言う意見もあります。確かにそのような強度レベルの食器を強化磁器食器として商品アイテムの一つに加える事も必要でしょう。ただし、強度のデータは正確に明記すべきです。その強度データを見て消費者が自分の条件に合った商品を納得して選択できる事が重要であると考えます。しかし、目に見えない強度の必要性を如何に判断したらよいでしょう?例えば小規模な施設で、家庭で使うように一枚一枚手洗いするような場合は、それほど強度の必要性は高くないでしょう。一方、大量に、過酷な食器洗浄装置を使用する施設では、大きな強度が必要になります。「他所の前例を参考に!」と前述したのは、実例を見て強度のレベルを判断するしか術がないだろうと思うからです。残念ながら、納入先からの破損率を集めたデータは公表されていません。

A子さん:「食器の強度なんてあまり関係ないんじゃないの。落としたり、強くぶつけたりしなけりゃ問題ないもの。」
B子さん:「そうよ。強いといってもお茶碗っていうのは結局割れ物だし。割れるからこそ大切に扱うようになるの。それが教育ってものよ。」
お茶の碗博士:「確かに、子供達が慣れるにつれて教室の中での破損は減少するらしい。しかし強度が必要になるのは、むしろ給食センターでの食器洗浄時や運搬の時なんじゃ。」
A子さん:「自動食器洗浄機があって便利なはずよ。」
B子さん:「私、写真で見たことあるわ。ベルトコンベアーに食器が乗せられ湯気の出てるトンネルに入っていくの。出口では、自動的に積み重ねられてるわ。」
お茶の碗博士:「それじゃ!その積み重ねる仕掛けが問題なんじゃ。30枚も重ねて行く工程を想像して見たまえ。」
B子さん:「そう言えば、落差が4~50センチあったかしら。ガチャン、ガチャンと食器が落ちて行く感じね。」
A子さん:「でも、ストッパーとか、何か緩衝装置が付いてるんじゃないの?」
お茶の碗博士:「磁器製の食器はプラスチック製と比べて重い事や、寸法精度にばらつきがあって、まれにではあるがストーッパーの爪を素通りしてしまう事も有るんじゃ。それでガッチャーン。茶碗は強いに越したことはない。」
A子さん:「それに食器の寸法をきっちり揃えて作ることが必要ね。」
B子さん:「それもそうだけど食器洗浄機の方を磁器製食器用にもっと工夫すればいいじゃないの。」
お茶碗の博士:「両方とも必要じゃろうな。」
A子さん:「食器が重いってことも問題ね。」
B子さん:「かごに入れる枚数を減らして持ち運ぶ重量を軽くしたり、給食当番の運搬係りを増やしたり・・・。」
お茶の碗博士:「そうじゃ。給食のシステム全体を考え直す必要がありそうじゃな。」
A子さん:「それと皆の理解と協力が肝心ね。」
お茶の碗博士:「なかなか良いことを言う。」
B子さん:「でも、家庭と同じように本物のお茶碗で給食が食べられるなんて素敵ね。」
A子さん:「同感!」

参考文献

  • 1)小林雄一、他、日本セラミックス協会学術論文誌95[9]887-92(1987)「アルミナ強化磁器素地の強度とワイブル分布」
  • 2)小林雄一、他、日本セラミックス協会学術論文誌98[5]504-09(1990)「高強度磁器素地の曲げ強度に及ぼす施釉の効果」
  • 3)小林雄一、他、日本セラミックス協会学術論文誌104[7]604-609(1996)「切り出し試験片による市販強化磁器製品の曲げ強度測定」
  • 4)日本体育・学校健康センター、「学校給食のための食器具の知識」(平成6年12月)
  • 5)濱野健也、他、日本セラミックス協会学術論文誌,102,665-69(1996)
  • 6)日本セラミックス協会規格、「食器用強化磁器の曲げ強さ試験方法」、JCRS-203-(1996)

(原本冊子発行日:1999年11月30日)

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